トマス・ビュイック(あるいはビューイック)の挿絵

かのウィリアム・ブレイク(William Blake. 1757-1827 )とほぼ同時期にイギリスで活躍した版画家にトマス・ビュイック、あるいはビューイック(Thomas Bewick. 1753-1828)という人がいる。
手元の本をあたるとW.H.ハドスン著/黒田晶子訳「鳥たちをめぐる冒険」(講談社 昭和52年=1977年)の挿絵の大部分、ギルバート・ホワイト著/西谷退三訳「セルボーンの博物誌」(八坂書房 1992年)の挿絵の一部にビュイックの版画が使われている。(「鳥たちをめぐる冒険」は現在単行本、講談社学術文庫ともに品切。)


ブレイクの方はWikipediaでもアジア言語を含む40以上の言語で記事があるのだけど、ビュイックについてはアジア言語は全滅、英語の他はロシア語を含む六つのヨーロッパ言語でしか記事がないから、よっぽど重要視されていないのだなあ、と思う。


でも僕はこの人の鳥を描いた版画が大好きで、かつては二巻もののぶあつい複製本(出版社失念)やRoyal Albert MuseumのパンフレットとしてHMSOが発行した可愛らしい小さな冊子も持っていた。何度かの引越の過程で人にゆずったり、古書屋さんに一山いくらで古紙回収同然に引き取られて行き、今、その二冊とも手元にはないけれど。(なんで手放してしまったんだ?、というとその頃は次々と増えて行く本の置き場に困ってしまって、潔く手放すことに美学を感じていたのだった。)


同時期のフランスの鳥類図鑑(たとえばサイトで紹介している「黄金の鳥」)が異国の鳥たちを色彩豊かに銅版画で刷り上げていったのに比べると、ビュイックは身近なイギリスの鳥を題材として、しかも単色の木版画であるから、いかにも地味ではあるのだけど、フランスの図鑑が「実物の生きているところなんて当然見ていません。もちろん剥製から描きました。いいじゃん、きれいだから。」、と開き直った風なのに対して、ビュイックの描いた鳥たちからは、剥製も細かく観察したには違いないけれど、彼が小川のほとりや森のしげみに隠れ、その目で生きた姿をも捉えていたであろうことが察せられて、実に生き生きと愛らしい。


そんなビュイックの描いた鳥たちを水彩画の複製、版画の複製、と少しずつ集めているところです。ある程度そろった時点でサイトで紹介していきます。いずれも小さくてチャーミングな画集です。自然を愛する人へのプレゼントにも。