小さな本の中に見つけた宝

ドイツのInselという出版社が刊行しているInsel Büchereiというポケットサイズ(12x18cm)のシリーズがあります。かなり歴史のあるシリーズのようで、今も継続して刊行されており、装飾的な厚紙の表紙が愛らしいのですが、このシリーズが戦前、1930年代に何冊かイラスト本を刊行しています(その後も再版)。たとえば、マリア・シビラ・メーリアン(Maria Sibylla Merian, 1647-1717) とか、ヤコプ・ヒュブナー(Jakob Hübner, 1761-1826 )といったドイツの昔の昆虫学者が描いた蝶や蛾の絵、あるいは植物学者たちが描いた樹木や、薬草や、野の花など。


 1930年代、一体どんな印刷の具合なのだろう、と思い、この度、幾冊かをかきあつめてみました。図版が美しいのです。原画の銅版画の細やかな線が実にうまく複製されていて、また、活版印刷によるテキスト部分もくっきりと鮮やかです。今、僕たちはこれまでの歴史の中で印刷技術が最も進んだ時代に生きているというのに、こういう鮮やかで繊細な印刷物に出逢うことはあまりないような気がします。当時おそらくごくごく当たり前に町の本屋で販売されていたであろう廉価な本の中に、思わぬ宝を見つけた気持ちになりました。


 思えば、すでにナチス・ドイツが政権を握り始めた時代。解説は「蝶の不思議な国で」(邦訳:岡田朝雄、青土社 1997年)など、自然を題材にした執筆の多い作家、フリードリヒ・シュナック(Friedrich Schnack, 1888-1977)によるもの。時代が重苦しい方向へ進んで行く最中に、こういった本をカバンにしのばせて、時に野原に出かけて、ほっとしていた人もいるのではなかろうか、と想像してしまうのでした。


 第一弾は来週に三冊をご紹介の予定です。