夜中の蝉

ひとひらない夜空に浮かぶ月を見てものどが乾くような暑さ。
深夜、街灯のともる近くにしげる街路樹からはニイニイゼミの声が聞こえて来ます。
夏だなあ。しみじみ・・・


いにしえの人が夜の蝉を歌った歌があることを見つけたときは、嬉しかった。
これまた「風雅和歌集」から。


空はれて梢(こずえ)色こき月のよの風におどろく蝉の一こゑ(伏見院)


伏見院というお方の歌には、自然への新しい発見があって、それでいてどこかのびのびとしていていいなあ。


この歌は純粋に自然の事象を歌い上げたものだと思うのですが、蝉というのは、それより前の日本では「はなかさ」の象徴でした。ほら、源氏物語でも「空蝉」などと言って、すぐ逃げてしまった女性とのはかないまじわりを描いた巻の名前に。
実際には昆虫の中でも「長寿」の方なのに平安時代の人は成虫しか見ず、結構身勝手かつセンチメンタルに蝉を見ていた、あるいは聞いていた、ということになりましょうか。
ところが、こちら中華文化圏ではガラッと解釈がかわり、蝉は吉祥の象徴になります。物を食べず、梢高く鳴くことから、清く、気高く生きる生き物、というこれもかっなり身勝手な思い込み。


そんな人間の思いなど知るよしもなく、今日も命のかぎり蝉は鳴いています。


さてさて、今日はいつくか洋書も入って来ました。
夏らしく自然観察会、いや、ちょっと違うかな、それでも身近な自然がテーマになった洋書です。
ひとつはパリの標本商、デロール(Deyrolle)が理科教育のために作成した図版を収録した一冊。理科の授業でこういった図版が使用される様子はたしかスウェーデン映画「やかまし村の春・夏・秋・冬」でしたか、それともフランス映画「トリュフォーの思春期」でしたか、登場していたような記憶があります。
それからピーターラビットの生みの親、ビアトリクス・ポター(Beatrix Potter)のスケッチブックから細やかな筆運びの水彩画を中心に収録した一冊。特に彼女のキノコのスケッチはすばらしい!
デロールの方の表紙はこんな感じ。

胡蝶書坊サイトでのご案内は来週になる予定です。


どちらの本も印刷はイタリア。イタリアという国のカラー印刷には定評があるのでしょうか、あ、これ、いい印刷具合だなあ、と思う本はイタリアで印刷されているものが多いのです。このあたりの事情ももっと詳しく知りたいところ。メーリアンの'St. Petersburg Watercolours'もイタリアでの印刷でした。


メーリアンと言えば、昨日予告しましたように7月、8月は「マリア・シビラ・メーリアン強化月間」と銘打って(?)彼女にまつわる本も入荷の予定。
ヴンダーカマー(Wunderkammer)のような本屋になれたら!という遠い遠い夢へのささやかな一歩です。


虫の嫌いな方、ごめんなさい。あ、でも、中国、台湾の本も忘れず研究中ですヨ。こちらもお楽しみに。