ニイニイゼミの声を聞くと

台風「蓮花」が熱低に変わって去って行ったと思ったところで、次の台風四号「南卡」がフィリピン沖に。
台湾は台風が非常に良く通過する島国。フィリピン付近で生まれた台風が威力を増した頃に通過するのが台湾なので、結構すさまじい風と雨に見舞われます。
ある時の台風では住んでいたアパートが風で揺れるのを感じながら夜を過ごし、翌朝は街路樹があちこちで倒れている光景に驚いた(正直のところは結構わくわくしてしまった。)ことがあります。


今日は外出する度にシャツを替えなければならないほどの蒸し暑さの中、次の台風を孕んだようなどんよりと曇った空の下で、時折強く吹く風に切れ切れになりながらニイニイゼミの声が聞こえて来ます。
タカサゴクマゼミの声よりも、ニイニイゼミの声を聞いた時に、ああ、夏が来たなあ、としみじみ嬉しくなるのは、多分、子供の頃から聞き慣れて来た声だからでしょう。


鎌倉時代末期の勅撰歌集「風雅和歌集」の「夏歌」の中に


雨晴れて雲吹く風になくせみの声もみだるる杜(もり)のした露


という歌を見つけました。この和歌集は、それ以前のどの勅撰和歌集よりも虫がたくさん登場するような気がして、好きな一冊です。名古屋で高校生をしていた頃、千種駅前の本屋さんでこの本を見つけて、いつかこづかいを貯めて買おう、と思いつつ、気がつくと30年が経っていました。


さきほど白人の旅行者が街路樹に止まっているタカサゴクマゼミをめずらしそうに見上げている、と思ったら、急に足下にあった小石を投げつけて、なんとか蝉を落とそうとしているのを見かけました。蝉、飛ぶんだよ。蝉がいない国から来たのかな?
そういえばシンガポールに出張した時に、まさに熱帯であるにもかかわらず、緑あふれる公園に蝉の声ひとつせず、蝶一匹飛んでいないのをとても奇妙に感じたのを覚えています。おそらく何もかも「管理すること」が徹底されているかの国では、虫一匹発生しないよう、徹底した殺虫剤散布が行われているのではないだろうか、と空恐ろしく感じた次第。
台湾は華人が人口の大半を占める国の中で唯一の民主主義国家であることをふと思い出しました。