ヘルマン・ヘッセの愛した図鑑は?

何度も何度も繰り返し読んだヘルマン・ヘッセの「クジャクヤママユ」(中学の国語の教科書でたしか「少年の日の想い出」という題名で掲載されていた。)という美しい短編の中で
「ぼくは自分が持っていた古い蝶蛾図鑑の図版でそれ(注:クジャクヤママユという優美な蛾)を知っていたにすぎなかった。手で彩色されたその銅版画は、どんな近代的な原色版印刷よりもはるかに美しく、また実際はるかに精密だった。」(岡田朝雄訳)
という図鑑が一体どんな本だったのか、どうも気になっています。
本の中に手がかりはありませんが、ドイツで版を重ねた蝶と蛾の図鑑に'F. Berge's Schmitterlings-buch'(初版はおそらく1870年、少なくとも8版1899年までは再版されたようです。**初版はどうやら更に遡るようです。さらに20世紀になってからも版が重ねられた模様。3月9日追記。)というものがあります。
19世紀の後半はすでにカラー図版の技術としてはリトグラフ(chromolithography)が普及していたでしょうから、多分、このBerge'sもリトグラフの図版なのではないかな?
と、するとヘッセの「手彩色銅版画」の図鑑というのは、もっと古い時代のものなのでしょうか?
一度ドイツの博物学専門の古本屋さんを一軒一軒たずねてみたいな、と思う、冷たい雨の日の台北です。


ところでイギリスのポケット版の小さな昆虫図鑑をパラパラとめくっていると、Poplar Kitten、Chocolate-tip、Gothic、Green Arches、Old Lady、Peach Blossom、Small Emerald、Beautiful Carpet・・・などという愛らしい名前を与えられた一群に気づきます。
これ、すべて蛾の名前なのですね。
実際、夏、蛍光灯の光に集まって来る小さな蛾に拡大鏡をあててじっと見つめていると、その美しさに「はっ」とさせられることがあります。
そんな暖かな季節にいいかげん早くなって欲しい。
今年の台北の春は少しおかしな具合です。