莽葛拾遺

DVDで久しぶりに「アデルの恋の物語」を見て、注目する場面といえば、アデルが手紙(日記?)を書くために本屋で頻繁に買い求める紙は一体何と言う紙なのだろう?とか、その本屋の主人が彼女へのプレゼントに(こともあろうに)「レ・ミゼラブル」を包む、その包装の仕方と紐の結び方、「そうかあ、こういう風に包めばセロテープを貼らずに済むし、受け取った人も包装紙を再利用できるな。」とその包みを開く場面を巻き戻してみたり.....うむ、それにしてもこの包装紙と紐、その組み合わせがしぶい。


昨日は友人と萬華の古本屋さん「莽葛拾遺」へ。セロハンに包まれた和書は取り壊される古い家屋から引き取って来たものとのことで、大正・昭和初期の出版物。おそらくは在台日本人家庭のものでは、と察せられる品々。台湾という湿度の高い土地柄のせいか、いずれもかなり傷んだものだった。


そういえば僕が台北に来た10年ほど前、現在は静閑な住宅地として人気のある臨沂街あたりでも黒い瓦屋根の日本家屋がたくさん残っていた。立派な庭もあり、桑の巨木やパンノキ、蓮霧の木などが茂り、夏の夕方にもあたりの道を小暗くして、それぞれの果実の熟す時期にはその道を甘いにおいで汚していた。


僕は台北の町のど真ん中に突如として時空を超えた懐かしい空間が出現するギャップが楽しくて、良くそのあたりを散歩した。こんなところで本屋ができたら素敵だなあ、などと愚にもつかぬことを考えながら。


ところが先日その近辺を通ると、あっけらかんと空が広がり、すでに家屋は解体され、更地に変わっていた。もちろん台湾の人にとっては、住む人も無く放置された日本家屋などは植民地時代の残骸でしかないのだろう、と思う。特に近隣の住人にとってはややもすれば浮浪者なども寄せ付けかねない厄介な代物でしかないだろう。それにしても何か他の利用方法はなかったものか、とやはり「惜しい」。


さて「莽葛拾遺」。この店自体も古い(築100年?)閔南建築の建物を補修して古本屋としたもの。この建物自体が魅力的だった。「紙もの」のコーナーには、マッチ箱、絵はがき、誰かが誰かに送った手紙、公文書らしきもの、アルバムから引きはがされた写真などが無造作に置かれている。「莽葛拾遺」のサイトへはここから。MRT龍山寺駅1番出入口から歩いて3分。


友人の案内で廣州街でおかゆを食べる。糸しょうがといっしょに食べる豚肉の揚げ物も旨かった。萬華に足を運ぶのは久しぶり。龍山寺付近の猥雑な雰囲気も良いものだ、と思う。