梅雨冷えの夜に

父、母が台湾に初めて来る、というのでツアー旅行の日程にフリーの一日を作って、とある蝶の観察地点に行きたい、というのだけど、じゃあ、雨だったらさて、その日をどうするか、などとぼんやりと考えている間に、相棒がてきぱき動いて友達から車を借り、また別の友人に当日のガイドを頼み、食事場所の資料をネットで検索し、あれこれやってくれていた。

台北に来た両親に、さて、何を見せるか、と考えても、たとえば、現存する古跡はせいぜい300年ほど前のものが最も古いものであり、実家の奈良や、お隣の京都には遥かに及ばないし、近くに世界遺産的な絶景のポイントが有る訳でもないし、実は表面的な観光スポットというのは故宮博物院ぐらいだったりするのだけど、でも、本当は台北で一番のもてなしになるのは、現地の人の情に触れることではないだろうか、とあらためて思う。

車を気前よく貸してくれた友人も、突然の申し出にガイドを気前よく買って出てくれた友人も、そして相棒も、皆、人を迎えることを楽しんで、気持ちよく過ごしてもらおうとする、その中国語で言う「好客」が、実は一番台北に来たら味わってほしくて、そして団体ツアーではなかなか味わえないことなんだな、とやっと気づいたのだった。

そしてそういう友人たちに囲まれて、僕はこの町に生かされているんだなあ、と感じた、そしてそういう友人たちに囲まれて僕がこの町に生かされていることを知ってもらうことが、父、母への一番のもてなしになるのではないか、と思った梅雨冷えの一日であった。